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アレクサンドル・ソクーロフの『ボヴァリー夫人』

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シアターイメージフォーラムで公開中の、アレクサンドル・ソクーロフ監督『ボヴァリー夫人』を観た。

「フローベール没後130周年記念ロードショー」という触れ込みだが、いわゆる「文芸映画」を期待して観に行ったら、間違いなくがっかり・・・というより怒り狂ってしまいそう。まずエンマが、まったく美人でもなければ若くもない。のどかなノルマンディーの田園風景も出てこない(撮影されたのは、中央アジアのとある村だという)。19世紀初めという時代設定に合わない奇妙な衣装(ディオールのデザインだとか)。絵画のように美しい場面もあるけれど、随所に生理的不快感をかき立てるような映像や音響が差し挟まれる。「大きいもの恐怖症」(周りのものと比べて比率がおかしいものが怖い)の私には、ぞっとする場面もいくつか。特に最後の葬送のシーンがすごかった。異様に大きな棺がほんとに怖い。原作が『ボヴァリー夫人』であることを忘れ、その奇怪な映像「美」に心を乱されるばかりだった。

葬送のシーンは原作にないエピソードだと思っていたのだが、いま手元にある小説の『ボヴァリー夫人』をたしかめてみると、エンマは樫とマホガニーと鉛の三重の棺におさめられた、とちゃんと書いてある。「一番外側の棺は大きすぎた」「六人の男がかついで、息をあえがせながらよろよろと歩いた」とも。原作をまったく裏切っているような映画の中で、このシーンだけは、フローベールのテキストに忠実に作られていたのだ。三重の棺の中に肉体を封印することで、ようやくエンマは魂の救いを得たというのだろうか。おそるべき映画、そして、おそるべき小説。久しぶりに『ボヴァリー夫人』を再読してみたくなった。

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by AngeBleu | 2009-10-11 10:23 | 映画