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フランスで最も美しい村(5)アンスイス

先月のフランス出張の際、オフの時間に、「フランスで最も美しい村」のひとつ、アンスイスAnsouisを訪ねました。エクス・アン・プロヴァンスから北へ30km、車で40分ほどのところ、リュベロン山地の南側に位置する小村です。
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前回のブログ記事で、「プロヴァンスの“美しい村”は、同じようなのがいくつもあるので、1日に数か所回ると、どれがどの村だったかわからなくなる」と書きましたが、ここアンスイスは、まさにその「プロヴァンスにいくつもある同じような村」のひとつ(笑)。ゴルド、ルシヨンなどが「美しい村」の看板をフルに利用して有名観光地への道を歩んでいるのに対し、この村は観光客の誘致などにはまったく興味がないようです。レストランは何軒かあるけれど、ホテルはないし、お土産屋さんのたぐいも見あたりません。要するに、昔からの住民が昔ながらの日常を営んでいる、ごくごく普通の田舎の村なのです。

とはいえ、この村には、ひとつとても貴重な文化遺産があります。
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それは、村の一番高いところに構えるアンスイス城。
10世紀頃に要塞として築かれ、その後何度か改築されて現在のルネサンス様式のお城になりました。特筆すべきは、このお城は12世紀以来、領主のサブラン家が所有し、現在に至るまで住み続けてきたこと。中世の領主様の物語が今に息づく、プロヴァンスで最も由緒あるお城なのです。城内の一部とルネサンス式の美しい庭園が一般公開されています。

実は数年前にも一度アンスイス城を訪問しようとしたことがあります。事前に電話で開いていることを確認したにもかかわらず、いざ行ってみたら「午後から出かける用事ができたから今日は閉めるわ」みたいな理由で門前払い……。文化財であると同時に、住まいでもあるわけだから、そんなことも起こるのです。今回の再訪にあたって、開館時間などを調べようとお城のウエブサイトを開いてみたのですが……。なんと、こんな画面が出てきて驚きました。
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“1000年の長い歴史が財政上の理由で終わりを告げました……誠に遺憾ながら、サブラン・ポントヴェス家は、アンスゥイス城が売却されたことをお知らせいたします”

フランス革命もふたつの世界大戦も生き延びてきた城が、平和なこの現代に「財政上の理由で」命を絶たれるとは……。ご先祖様から受け継ぎ大切に修復を続けてきた城を売らなければならなかった最後の城主はどれほどつらかったことでしょう。城が売却された2007年当時のニュース記事など斜め読みしてみると、最後の城主であったジェロー・ド・サブランの兄弟姉妹間で遺産相続を巡って長年の不和があったようです。ジェロー・ド・サブランは、現在、妻とともにアンスゥイス村の中のつつましい家に暮らしているのだとか。彼らにとって一番の気がかりは、城の新しい所有者が、城の姿を変えることなく、今後も一般公開を続けてくれるかどうかということだそうです。

アンスイスの観光案内所のサイトによると、城は現在、新しい所有者が自らの住まいとすべく改築中とのことですが、幸いなことにまったく公開していないわけでなく、月に数回、見学日がもうけられているようです。
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中世の要塞だった頃の面影が残る城の入口付近。私が行った日は見学日ではなかったので、門はかたく閉ざされていました。

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お城の前の広場から、広大なリュベロンの大地が見渡せます。家々の煙突から暖炉の煙がたちのぼり、なんとも牧歌的な風景です。冒頭で「ごくごく普通の田舎の村」と書きましたが、それこそがこの村の魅力。観光地化していないありのままのプロヴァンスに出会うことができる場所なのです。アンスイス城の改装工事が終わり、本格的に一般公開される日が来たら、またぜひ訪れてみたいと思いました。

※「Ansouis」の読み方について。フランス語ではふつう最後の子音を発音しませんが、現地の人はプロヴァンス風に最後の「s」を発音して「アンスゥイス」と言っています。同じような地名の例に「ジゴンダスGigondas」「ミラマスMiramas」、コート・ダジュールの「ビオットBiot」などがあります。
by AngeBleu | 2010-01-10 15:19 | 南仏プロヴァンス