2010年 01月 10日
フランスで最も美しい村(5)アンスイス
とはいえ、この村には、ひとつとても貴重な文化遺産があります。
10世紀頃に要塞として築かれ、その後何度か改築されて現在のルネサンス様式のお城になりました。特筆すべきは、このお城は12世紀以来、領主のサブラン家が所有し、現在に至るまで住み続けてきたこと。中世の領主様の物語が今に息づく、プロヴァンスで最も由緒あるお城なのです。城内の一部とルネサンス式の美しい庭園が一般公開されています。
実は数年前にも一度アンスイス城を訪問しようとしたことがあります。事前に電話で開いていることを確認したにもかかわらず、いざ行ってみたら「午後から出かける用事ができたから今日は閉めるわ」みたいな理由で門前払い……。文化財であると同時に、住まいでもあるわけだから、そんなことも起こるのです。今回の再訪にあたって、開館時間などを調べようとお城のウエブサイトを開いてみたのですが……。なんと、こんな画面が出てきて驚きました。
フランス革命もふたつの世界大戦も生き延びてきた城が、平和なこの現代に「財政上の理由で」命を絶たれるとは……。ご先祖様から受け継ぎ大切に修復を続けてきた城を売らなければならなかった最後の城主はどれほどつらかったことでしょう。城が売却された2007年当時のニュース記事など斜め読みしてみると、最後の城主であったジェロー・ド・サブランの兄弟姉妹間で遺産相続を巡って長年の不和があったようです。ジェロー・ド・サブランは、現在、妻とともにアンスゥイス村の中のつつましい家に暮らしているのだとか。彼らにとって一番の気がかりは、城の新しい所有者が、城の姿を変えることなく、今後も一般公開を続けてくれるかどうかということだそうです。
アンスイスの観光案内所のサイトによると、城は現在、新しい所有者が自らの住まいとすべく改築中とのことですが、幸いなことにまったく公開していないわけでなく、月に数回、見学日がもうけられているようです。
※「Ansouis」の読み方について。フランス語ではふつう最後の子音を発音しませんが、現地の人はプロヴァンス風に最後の「s」を発音して「アンスゥイス」と言っています。同じような地名の例に「ジゴンダスGigondas」「ミラマスMiramas」、コート・ダジュールの「ビオットBiot」などがあります。