Trans Europe Express


フランス、ドイツなどヨーロッパの旅の話題を中心に、映画、音楽、ダンス、アート鑑賞記録も。
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オルハン・パムク『雪』

オルハン・パムクの『雪』を読み終えた。パムク最初で最後の政治小説……というので、ちょっと身構えていたが、「雪の静寂だと考えていた」という冒頭の一節から、魔法にかかったようにぐんぐんと小説の世界に引き込まれた。超絶技巧、とでもいいたくなるような文体は、『わたしの名は紅』と同じか、それ以上かもしれない。

この世の果てのようにさびしい辺境の町、カルスに降り続ける雪。4年間詩を書けなかった詩人の元に、突如降りてきた詩。すべての人々がひとつひとつ持っている雪の結晶。そうしたものすべてを作り出した「神」の存在……。さまざまなイメージが雪のように、しずかに心に降り積もっていく。何という美しさ。同時に、美しい雪の下に隠された、トルコの、カルスの町の過酷な歴史、人々の苦悩、孤独に、胸が押しつぶされそうになる。

『わたしの名は紅』でも、東西文明のはざまで苦悩する人々が描かれていたが、それは私にとって遠い昔の遠い国の出来事に過ぎず、ひたすら物語の世界に陶酔していればよかった。しかし、『雪』で描かれている人々の苦悩は、まさに今、世界のどこかで現実に存在しているもの。ただ心地よく酔っているわけにはいかない。

トルコではイスラム教徒が大半を占めるにもかかわらず、大学で女子学生がスカーフを着用したまま授業を受けることが禁止されているという。それほど徹底した政教分離の国だということに驚いた。トルコやイスラムについて何も知らなかったことを思い知らされた。知らず知らずのうちに「イスラム主義=旧弊、悪」、「世俗主義=正義、自由」という単純な考え方が染みついていたようにも思う。自分の無知、無関心を恥じるばかりだ。でも、この小説を読んだから、何かが理解できるようになったというわけではない。登場人物のひとりは、語り手「わたし=パムク」に向かって言うのだ。
「カルスを舞台にする小説に俺を入れるなら、俺たちについてあんたが話したことを読者に信じてほしくないと言いたい。遠くからは誰も俺たちのことをわかりはしない」

図書館に『雪』を返したあと、『イスタンブール』を借りてきた。パムクの子供時代とイスタンブールについてのエッセイ。まだ読んでいないけれど、本文のところどころに挿まれたモノクロームのイスタンブールの風景を見るだけで涙がでてきそう。
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by AngeBleu | 2010-03-05 22:05 | 読書

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