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映画『パリ20区、僕たちのクラス』

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2008年のカンヌ映画祭でパルム・ドールを受賞した『パリ20区、僕たちのクラス』がようやくこの夏日本公開されることになりました。六本木のフランス映画祭でも上映されたようですが、20日(土)に飯田橋の日仏学院で無料上映をやっていたので、こちらで観ることに。上映後、ローラン・カンテ監督によるトークショーもあり、なかなかおもしろい話が聞けました。

舞台は、パリでも移民の多い地区であるパリ20区にある中学校。そこに集まるさまざまな問題を抱えた生徒たちと1人の国語教師の1年間の“戦い”を描いた作品です。原題は『Entre les murs(壁の中で)』。そのタイトルどおり、ほぼ全編が4枚の壁に囲まれた狭い教室の中で撮られています。だからといって退屈だったり息苦しかったりということはまったくありません。教師と生徒たちの間で交わされる会話が、ドキュメンタリー映画か?と錯覚するほど、リアルで生々しくスリリングなのです。生徒たちは、この映画のためのワークショップ参加者から選ばれた地元の中学生。国語教師のフランソワも原作の小説の作者である現役教師が演じているというから驚きました。

フランスの国語の授業がどのように行われるかがわかるのもおもしろく、ちょっとフランス語をかじったことのある人なら、自分も授業に参加しているような気分になるはず。フランスでは文部省みたいなところが決めた教科書を使うのではなく、市販されている本の中から教師が自由に教材を選ぶんですね。それを読ませて、自分はどう考えるかを自分の言葉で表現させるのです。教師が一方的に正しい答えを教えるだけの日本の学校とはずいぶん違います。教室とは、対話の訓練をする場所。国語(フランス語)を学ぶ目的は、自分の考えや意見を(その場の状況に応じた言葉遣いで)表現できるようになること。それを学ぶことができた者は、たとえ貧しくても、どんな出自であっても、この世を生き抜くための武器を身につけたことになるのです。学年の終わりに1年間で何を学んだかを各自発表するときに、ある女子生徒が「プラトンの『国家』を読んで、対話の大切さを学んだ」と語ります。前半の投げやりなアホ面とは打って変わった、輝く笑顔が印象的でした。

しかし残念ながら、すべての生徒がその武器を身につけられるわけではありません。教師の力には限界があるうえに、フランスの教育システムにもかなりの欠陥があるようで、落ちこぼれた生徒は容赦なく切り捨てられるしくみになっているのです。「1年の間で何ひとつ学ぶことができなかった」と訴える生徒に、フランソワは口先だけの励まししかできません。また、日本ではありえないような些細な理由で退学させられる生徒もいて、そのエピソードは非常に後味が悪いものでした。フランスの教育現場における「懲罰主義」は、大昔の映画『操行ゼロ』や『大人は判ってくれない』の頃とまったく変わっていないようで、暗澹とした気分になります。こんな底辺校を追い出された生徒に、次の受け入れ先があるのでしょうか。出身国のアフリカにも現在住むフランスにも居場所をなくした子供が、この先どうやって生きていけばいいのでしょうか。「理想的な教師やユートピアとしての教室を描くつもりはなかった」と監督が語るように、きれいごとだけではない厳しい現実をありのままに見せているのがこの映画のいいところなのですが……。劇場公開時には、多くの人にショックを与え、論争を呼びそうです。

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by AngeBleu | 2010-03-23 00:18 | 映画