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平田オリザ『砂と兵隊』パリ公演

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今、フランス出張中です。
パリ郊外のテアトル・ド・ジュヌヴィリエで上演中の、平田オリザ作・演出の『砂と兵隊』を観てきました。平田オリザの作品は、フランスですでにいくつか紹介されていて、昨年はフランス語字幕付きの『東京ノート』が上演されたそうです。ありふれた日常会話が続くだけなのに、いつしか観る者の心にさざ波を起こす……、そんな静かな舞台が、饒舌なフランス人の心もひきつけたのでしょうか。今回の『砂と兵隊』は、フランス人の役者による、フランス語上演と聞き、どんな舞台になるのかと興味を持ちました。私はこの芝居を日本で観ていないので、フランス語大丈夫かな、と心配だったのですが、いつもの平田作品のようにシンプルな日常会話で構成されていたので、おおむね理解できました。

舞台上には、巨大な砂の山が築かれています。どうやら、中東かどこかの砂漠のまんなかのようです。奥の砂山の向こう側から、軍事訓練中の3人のフランス人兵士が現れます。ひとしきりナンセンスな会話をしたあと、ほふく前進で砂の上を横切り、去っていきます。次に、母を探す娘とその父、砂漠パッケージツアーでやってきたハネムーンカップル、従軍中の夫を訪ねてきた妻、本心では人殺しなんてしたくないと思っているふたりの敵兵(このふたりだけ日本人が演じていました。日本語混じりで)。ときには互いにからみあいながら、同じようにナンセンスな会話をし、同じように舞台袖に消えていきます。彼らは目的地に着くことができるのでしょうか。探している人に出会えるのでしょうか。そもそも、登場人物の誰も、自分がなぜ歩き続けているか、本当はわかっていないようです。不運な勘違いから敵兵に夫を殺された妻が、兵士たちを責めます。「民間人を守るのがあなたたちの仕事じゃないの?」 兵士は答えます。「そんなことが僕たちの仕事じゃない。僕たちの仕事は……歩くことだ」。

「本日の公演は終了いたしました。お気を付けてお帰り下さい」という字幕が(フランス語、日本語、アラビア語などで)出たあとも、登場人物たちはかわるがわる舞台に現れ、ずっと歩き続けます。おそらく、観客が全員帰るまで……。帰りのメトロの中で、永遠に歩き続ける人々のイメージが、ずっと頭の中に浮かんでいました。

客入りは、3分の1くらい。もっと日本人が観に来ているのかな?と思っていたのに、私以外、全員フランス人の観客でした。『Sables et Soldats』は、4月11日まで。テアトル・ド・ジュヌヴィリエは、メトロ13号線のGaberiel Peri下車徒歩10分です。なぜかこの劇場は、東京都民は半額になります。
by AngeBleu | 2009-04-05 02:04 | 演劇